2024.02.28 02:01言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(八) テレビのニュース番組なんぞで桜が五分咲きだの満開だのというお先走りの映像が流されるたびに、うんざりするほどの長い冬を経て募るだけ募った美の感動への期待感がどんどん目減りし、肝心の我が庭の花々が大分遅れて笑む頃には感激もかなり薄まってしまっているのです。 それが癪で、この季節には...
2024.02.23 23:23言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から (七) 春の嵐というやつが、朝っぱらから乱暴狼藉に及んでいます。 地元民が言うところの〈アルプス颪〉なる強風が吹き荒れているのです。 ここ半世紀以上の間に経験した一番の台風であっても、例年のこれに優るほどの凄さはありません。細長い三階建ての家がぐらぐら揺れるたびに、鳥類とはいえあまりに...
2024.02.21 03:50言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から (六)いつになくうららかな昼下がりです。春一番とおぼしき風を感知しました。夢見るような心地の刹那、季節の境界線とやらが眼前を過ったのです。すると、慎ましやかに過ぎる暮らしに埋没したまま、それでも自分たちは幸福だと言い張りたがる老夫妻と、もしかするとかれら両人をペットとして眺めているのか...
2024.02.16 04:39言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から (五)可憐にして健気なスノードロップが、残雪を割って花を咲かせながら、日陰のそこかしこでさりげない笑みを浮かべています。そして、これに似た種類のスノーフレークもまた、後を追いかけるようにして春の先取りに余念がありません。彼女たちが秘めている生命力の逞しさにはほとほと感心させられます。目...
2024.02.14 14:20言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から (四) 冬のあいだに落下した枯れ枝を拾い集めています。 こうして庭仕事が始まるのです。 枝の太さは、小指大の物から、脳天を直撃されると死ぬかもしれない、凶器とも思える代物までとさまざまです。雪と突風がもたらす剪定なのですが、魅せる庭造りとなると、どうしても自然任せにはできず、人の手を加...
2024.02.09 02:32言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から (三) 妙に生暖かい雨が降っています。春の前触れのそれとして受け止めたいのはやまやまなのですが、どこかに不気味なものが感じられて、素直に喜べません。 残雪の八割方が消えて、朽ち葉で覆われた庭の面が剥き出しになっています。そのまだら模様を三階の窓から眺めているうちに、いよいよ季節の混乱が...
2024.02.04 08:54言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から (二) 標高七百五十メートルに位置する我が家では、春の足音の最たるものはなんと言っても雪崩の轟音に止めを刺すでしょう。 鋭く切り立って西に聳える高峰がまばゆい旭光に照らされてバラ色に輝き始め、そのしばらく後にあちこちの急斜面から雷鳴に似た重低音が発生し、南国育ちのタイハクオウムのバロン...
2024.02.04 08:52言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から (一) いつの間にやら八十歳になりました。長いこと文学の創作に携わり、あと二年もすると六十周年を迎えます。 なぜか元気です。肉体のほうはまあまあといったところですが、精神のほうは苦労性のせいなのか研ぎ澄まされる動きを止めません。二十三歳の春に結婚した二つ年下の妻と、今年で七歳になるタイ...
2024.02.04 08:51丸山健二新連載「言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から」開始します大変ご無沙汰しています。丸山健二の随筆の連載を始めたいと思います。連載はこのHPとnoteで行います。週1回程度更新する予定ですので、よろしくお願い致します。管理人