2024.05.28 19:27「美学がため息を漏らす」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(二十八) 我が庭には、どういうわけか枝垂れの樹木が似合いません。 家の構造も含めて全体的に直線的な印象が強いためなのでしょうか、なぜか馴染まないのです。 それでも、糸枝垂れの桜が春風に揺れて咲き乱れる蠱惑的な風情に憧れるあまり、ろくすっぽ考えもせずに取り入れてみました。予算と根付きの関係...
2024.05.24 07:14「植物は植物として扱うべし」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(二十七) 常緑針葉樹のなかで好きなのは、ツガよりも葉が小さいコメツガです。 これを我が庭へぜひ取り入れたいと思い、知人の許可を得てその山を駆けずり回ったのがもう三十数年ほど前のことです。ありふれた樹木であるのになぜそこまで探し回ったかと言いますと、より小さな葉のものを欲していたからです。...
2024.05.20 00:05「小説家のサガって何?」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(二十六) アカゲラとアオゲラの二種類のキツツキがしばしばやってきます。なんとも気紛れな訪問で、季節を問いません。 少しばかり見た目がいいからといって、必ずしも大歓迎というわけにはゆきません。それというのも決まって悪さをするからです。樹木の表皮の裏側に巣くっている虫をほじくり出したり、ドラ...
2024.05.15 10:39「最後の勝利者は誰?」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(二十五) 庭造りは、草取りに始まって草取りに終わると言ってもいいでしょう。 それが基本中の基本という地味な作業の連続なのです。けっしてチャラチャラした趣味ではありません。地道な努力の積み重ねが必要とされるのは、他の趣味と同じです。 ところが、どうでしょう、ガーデニングも文学もなぜかそうし...
2024.05.12 02:32「光を浴びてから死のうか」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(二十四) 家と庭が合体してこその〈家庭〉なのでしょう。 その意味においては私の住処も家庭の仲間に入るのかもしれません。 しかし、半世紀以上もこの地にこうした形で住まっているというのに、その実感が一向に湧いてこないのはなぜでしょう。 子どもがいないからでしょうか。それとも、小説家という、浮...
2024.05.06 00:43「天然記念物であらせられるぞ!」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(二十三) 数年前の真っ昼間の出来事です。 ふと庭へ目を転じて仰天しました。なんとニホンカモシカの訪問ではありませんか。 もちろんこうした山国ですから、あちこちの山林では幾度も見かけていました。しかし、いくら田舎町の田園地帯とはいえ、ここでも一応は住宅地なのです。キツネやタヌキならまだしも...
2024.05.03 06:51「自分を買い被ろうかな」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(二十二) 庭の花が咲き乱れています。 好みの草木たちが黄金の季節を迎えて大はしゃぎしています。 地味な田園地帯の一角にあって異様な華やかさを醸すこの空間は、どこに潜んでいたのかわからない珍しい蝶や季節の小鳥を呼び集めて、作庭家自身を有頂天にさせます。 もしかするとですが、こうした高揚感こ...
2024.05.01 01:47「死ぬまで振り返らないぞ」言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から(二十一) 正直、近頃の天候の高圧的な態度にはいささか押され気味です。 それというのも年々歳々予測不可能な展開が次々にもたらされるからでしょう。 その反面、我が庭の植物たちがこぼす無言の愚痴には、環境に支配されるしかないのだという、半ば諦め気分やら運命の必然性やらも感じられてしまうのです。...